サンパウロからの小話05 つかの間のスリル(A 鎌谷)

 大きな店やスーパーの入口には、遮断機が設置されている。カードを取るもの、取らぬもの、決まっていないが、普通は無人である。人件費は極力抑えるのがモットーらしい。

 市内のショッピングでのこと。いざ帰ろうとしたが先の車が動かない。何をしているのか早くいけ、と車から降りて前をみた。無人の遮断機は降りたままで、停電。どうしていいのかわからない。車はどんどん増えていき、気の短い奴は警笛を鳴らしだす。従業員がやってくるが、普通は無人で動いている機械、緊急時の手動切り換えはどうやるのか知る者はすくない。最初に来た者が電話をかけて走り去る。待つこと15分。なんとか車は動き出した。こんな時の自動無人機は始末が悪い。

 ある日、急いでいたが燃料タンクの針は給油したほうが無難だと指示している。途中スーパーのガソリンスタンドに立ち寄り給油を終え、前の車に続きカードを読み取らせ、出ようとしたら途中まで上がった遮断機の棹は降りてきて出られない。カードは捨てたのでどうしょうもなく、そうだ別の出口があると行きかけてハッとした。あそこもカードなしには出られない。こんな場合はどこへいって誰にいうのか、急いでいるのに困ったと車の外へでた。暇だからじっと見ていたタクシー待合所の運転手が声をかけてくれた。

 「大丈夫だから、前の車にくっついて行け、大丈夫だ」お礼を言ってこの際やったことはないが、なにしろ急いでいる、結果がどう出るか出たとこ勝負、とピタリとくっつき速度を合わせて通過した。急に降りてくるのではないか、と心配した棹は動きもせずじっとしたままで、約束の時間には間にあった。なんだ場合によればカードは要らないのだ。カード無しでも前の車にくっつけば通過できるのだ、と分かり遊び心から、次回はわざとくっついて出た。成功!本当はその辺で止めておくべきだった。その日、スーパーの入口で、前の車がモタモタして入っていくので続いて入った。ボタンを押すことなく入れた。なんだ、入る時だって入れるのだ。

 店内で買物しながら考えた。今回の入場はカードなし、ボタンも押していない。機械は私の入場に関しては全く記録がないのだから、出るときに真面目にボタンを押しても遮断機は上がらない。下手をすると、これは面倒なことになるぞ。悪いことに車の名義は娘のものだし、ひょっとすると直ぐには帰れないかも知れない。買物を終え、ハンドルを握った時から、心臓はドキドキしてきた。過去には二回、ボタンをおさず見事に脱出成功しているのだから、あのノウハウでもう一度やるしかない。出口近くに車を止め、ゆっくり走る車の後ろにくっつく!アクセルをふかし気味に前の車に、続いた!

 つかのまのスリル、気持はワクワクして成功したが、繰り返さぬほうが無難とおもった。