サンパウロからの小話14 雨(A 鎌谷)

 ブラジルの八月は雨期かと思われるほど、今年は雨が多かった。ゲートボールも休み勝ちなんとなり、うっとうしい。「恵みの雨」などというが、作物を植えていなければそれもピンとこない。何か楽しいことはなかったかと考えたが、雨と楽しいこととは中々結びつかない。思いだしたフレーズがある。

「雨の日も楽し、君麗しのコート着て」

 まだ日本にいた頃記憶したに違いない広告の文章だろうが、日本ではそんな素敵な人には出会えなかった。雨が関係すると、どうもつらい記憶の方がポツリ、ポツリと浮かんでくる。

その??

 あれは初めてイチゴを植えた年だった。その日は早朝からやけに寒かった。空は日本の秋晴れの如く青く深く澄み切っていた。寒さで、脚が締め付けられるように痛い。霜がくる。そのことも考えて、畝は黒いビニールで覆いたかったが資金は途中で無くなり、枯草を敷いた。これでは昼間の地温の温もりを保持できず霜がきたらひとたまりもない。唯一、イチゴを守るには人工の雨を降らすことだろう。霜害は明け方がひどいというから、その前からスプリンクラーを廻し続けて水をかけ、夜が明けるまで頑張ってみよう。準備はすべてOK。それにしても寒い。時間がきてエンジンをかけた。水は勢い良く噴き出され、畑全体、イチゴの葉っぱを濡らしていく。この寒さに苗は耐えてくれるのか。寒さを突き破るようにエンジンの音が暗い夜空に響きわたる。

・・・夜が明けた。自然の雨と違うところがあった。人工の雨は連続して降らない。スプリンクラーが一巡するその僅かな隙に霜は葉っぱや幼果に襲いかかり傷つけていった。

 時間の経過と共に葉は徐々に変色し、幼果は焼けて変形した。

 その年は辛うじて食いつなげたが、この一件で自分の能力の限界を思い知らされ、もう一度自分の得意な分野でゼロからやり直しだと、総てを投げ出した。

 

そのー2

 その日外は、台風が来たように雨と風が暴れまわり、室内で仕事をしていても落着けないほど外は荒れていた。三時ごろその嵐が落着いた時、社長の言で早めに仕事を切り上げた。ノーベ・デ・ジューリョに車を乗り入れたが、大通りは三連休の中日のように車は全く走っていない。トンネルに入る。水が溜まっている!後へは戻れないので、ギアを低速に入れ、アクセルを力一杯踏み込んだ。

 水深ふかく車は途中で止まってしまった。困った。一人で押して動くのか。降りようとしたら子供達が4?5人寄ってきて、小父さん助けて上げるから、と手を出している。同意した。安全地帯に着いた時、先客がいた。当時の高級車。この車も水には弱いのか途中で停まったらしい。チラリと見てエンジンをかけた。2回、3回、かからない。小父さん、整備士が要るね、と手を出している。もう一度お世話になった。子供達はチャッカリと両方から小遣いをせしめて走り去る。高級車から始めたが結局ダメでギブアップ。続いて私の大衆車。俺、この車大好き!とボンネットに口をつけ、暫くゴソゴソやり、始動しろという。キーをそーと廻す。

「かかった!」誰一人通らない大通りを悠々と帰路についた。

 どなたか雨にまつわる楽しい話、ご披露願えませんか。