サンパウロからの小話13 疣[いぼ](A 鎌谷)

 小さい間は兎も角、大きくなると少々厄介な代物。邪魔になるので取って欲しいと頼まれると、鍼灸師はお灸で焼いて取ります。病院では反対に液体窒素で冷凍さして取り、時には手術をするのでしょう。

 衣服の下に隠れているいぼまでは深入りしませんが顔は隠しようがなく、経験上湿っぽいいぼは悪性に変わる可能性があると、師の診察所では無料で取り除いて上げていました。一人や二人では解らぬ事が、数が増すことで一つの傾向が浮かんできます。例外もあるので正確なものではありませんが、女性の一面と考え、観察してみると面白いので話してみます。

 若い女性(20代、30代のつもりですが)は御自分の容姿に自信があるようで、いぼの一つや二つが顔にあっても、取って下さいと言われる方少なかったようです。

 50代になると、もう自信を持って御自分の生き方を邁進されているせいか、或いは、「少し言い過ぎ」と思いつつ敢えて言ってしまえば、もう諦めの境地なのか、いぼを取る、取らない、に関しては無関心です。

 然し、40代は出来ればもう少し若く見られたいと望んでいられるようで、「お願いします」と言う方多かったようです。

 いぼ全体をもぐさで覆い、火をつけて焼くのですから熱いのです。連続して焼くといぼは徐々に焼き焦げ、黒い炭状になれば作業終了。我慢が必要です。

 或る日、その男性は一般の患者さんが居なくなった頃に来院され、「お願いします」の言葉を目礼で示し、横になってズボンを下ろしました。年の割には引き締まった肉体が現れます。多量のもぐさを用意して作業開始。肛門の横にひよ子豆程のいぼがあり、便所に行く度に少々困る事があると言われます。火をつけるともぐさは徐々に焼けいぼを直撃します。言葉を発しなくとも熱いはず。肛門筋はキューン、キューンと締まります。かなりの時間焼続け「もういいだろう」の師の合図で治療終了。

 「お世話になりました」と患者さんが帰られた後、「良く我慢したね。あそこのお灸はとっても熱いんだ」との師の言葉と、治療中に気付いたシャワーを浴びて来院されていたことが重なって、いたく感心させられた患者さんでした。

 「いぼを取ってもらえませんか」とある日電話があった時、場所も聞かずに引受けてしまったのです。加えて、治療時に良く観察すれば過去のいぼとの違いも分かったはずですが、無鉄砲に治療を始めてしまいました。焼いても、焼いても色が変わってきません。何かが変なのです。もぐさの量を増やしても同じこと。少し冷静になって、いぼ半分をもぐさで覆い点火しました。肛門の粘膜上にあるいぼの半分から、粘液のようなものがジワーとにじみ出て来ます。初めて眼にするものでした。繰返しても同じこと。これでは焼き切れぬはずです。

 患者さんには事情をはなし、謝ってお引取り願いました。師が亡くなった今、こんな場会はどうすべきなのか、訊ねてみたい気持ちで一杯です。