サンパウロからの小話12 カボチャ(A 鎌谷)

 日本人が好んで食べるカボチャは二種類ある。一つは圧倒的に生産量の多い「てつかぶと」、二つめはうんと少なく、あの広いセアザの朝市でも二か所でしか見られない「えびす」、特にこの後者の良く熟れたずっしりと重い逸品に出会うと、思わずニヤリと笑顔になる。

 昔は生産者の認識不足か、それとも客の好みもあったのか、随分若い内に収穫され青々としていた。上手に炊こうとしても「ほっこり」した感じには程遠かった。近頃は表皮の一部が黄橙色になるまで待って収穫されるのか、非常に良い品物に出会うことが多くなった。

 養鶏場勤務の頃は社宅住まいだった。その頃、どんな経路で入手したのか記憶にないがこの「えびす」の種が手に入った。社宅の周りはだだっ広く、作物を植える土地なら十分にある。蒔いてみた。種は芽をだし、順調に生育し、やがて花が咲き実をつけた。

 注意して観察すると、私は如何にも日本製、と言わんばかりに、この広い土地に遠慮しいしい蔓を伸ばし、次々と花を咲かせ実をつける。狭い日本の畑で躾けられたかの如く大層効率が良い。・・・収穫の時期がきた。畑に行って数えてみると、9個実がついている。

 ただ最後の実は収穫するにはまだ早く、もう少し待とう、とその日は採るのを留まった。

翌日、畑にいって我が眼を疑った。「無い!」ことごとく消えていた。収穫の日を楽しみに待っていた人が他にもいたらしい。そんなこととは夢にも思わず世話をしていたのだが、起こってしまった後では為すすべはない。「武士の情け」せめて1、2個は残してくれればと思うのは負け犬の遠吠えか。あの日以来、このカボチャだけは二度と植える気持が湧かなかった。

 収穫時期がきて、毎週このカボチャを見、買って食べている内に、種が余りにもきれいでもう一度植えてみる気になった。よく肥えた丸々した種を選び植えてみた。

 つるの伸び方はあの時と変らず、そろりそろりだし、花も効率よく咲く。ただ、実がついても暫くすると腐ってくる。天候もその時はぐずる日が多く、雨模様で温度も低かった。

そんな条件下でも変った奴はいるようで、徐々に実を肥らせ直径12cmにまで育ったが、それが限界で腐ってしまった。連続して実らぬ事故に気を取られ、忘れていたことがある。

 農業界では、種を制する者は、世界を制する、といわれている。毎年、多量に使う植付け用の種、高収量を約束する種(交配種)、の次世代は種としては使えない、という。種は毎年毎年買い求めねばならない。種苗会社がよい種を作れば作るほど、巨大化する可能性がこの辺りに存在する。

 そのことを思い出すと種を買って植えれば事済むが、家族が減った現在、9個も一度に収穫できたらその後が大変。朝市で買い求めて満足すべしと思い直した。