サンパウロからの小話02 吠えない玩具 (A 鎌谷)

 ドーベルマンらしき捨て犬を家内が貰い受けて来た。発育途中で痩せていて、耳、尻尾が切ってなく、おまけに少したれ目は駄犬で締まりが無い。家に着くと寄生虫を退治して、仲間の二匹と一緒にされた。

 習慣は容易に抜け切らず、朝夕定刻にエサを与えてもまるで欠食児童の如く「あっ」という間に飲み込んで「ゆっくり食べな」などと言っても何処吹く風、編入組は躾が出来ない。加えて放浪癖は抜け切らず、戸口が開いているとさっと逃亡する。外には自由ともっと良い事があるとでも思っているらしい。

 こんな滑り出しで数ヶ月が過ぎた。身体はドンドンでっかくなり、一番の大柄になった。そうなると三つ巴のトップ争いが始まった。牝同志の喧嘩は全く始末が悪い。決着がつかず思い出したかの如く突然おっぱじめる。歯型の穴が身体につき、時には皮膚の一部がペロリと捲れる。住み分けさせる事にした。

 「ルル」と名付けられたドーベルマンは外が見渡せる一番良い場所をもらい、広場に来る人や、散歩の犬、遥か彼方の野良犬等が目に付くと盛んに吠え出した。喧嘩の出来ぬうっ憤をこんな所で発散しているかの如く、「やめろ」と言っても意味が解らず吠え続ける。元気が余り過ぎている。或時テニスボールを投げると拾ってくる事を覚えた。気分が乗るとボールを足元にポトリと落とし、もう一度投げろと催促する。投げるとすっ飛んで行く。五回、十回と繰り返すと流石疲れるらしく、もう落さない。無理に取ろうとしても離さない。ボールが口にある間は吠えない。そうか何かをくわえさして置けば良い。

 それ以来、空のペットボトルが玩具になった。噛めば音がしてへしゃがるので、それが面白いらしい。動き廻る時は、何時も口にくわえている。少々乱暴に振り廻そうが壊したところで代わりは常にある。ペットショップの犬用玩具は硬質のプラスチックでも、口にくわえて振り廻すとあっという間に寿命が尽きる。

 或時、近くの店で家内が見つけてきたのは中国製ホットドッグ。大型のパンにソーセージ、芥子まで本物らしく作られて、噛めばピー、ピーと音がする。随分気に入ってこれは大事に扱っていたが、何時しかソーセージは吹っ飛んでパンは腹からザクリと割れた。暫くの間、適当な玩具が無かった。再度ホットドッグを見つけ「ほら、ピー、ピーだよ」と渡した時から犬の態度がガラリと変わった。片時とてぬいぐるみを離せない幼児の如く、口にくわえてワンともスンとも言わない。大事なご飯の時ですら、口から離さずご飯を睨んでいる。噛めば音がするのだが、それすらも我慢している。

 気が付くと吠えなくなった。道路を人が通り、犬がウロついても戸口まで走っては行くが吠えない。静かである。犬用玩具、今回だけは逸品で、この玩具を作った人に感謝している。願わくば一日でも長く持ちますようにと祈りつつ。

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