記憶をひもといて:「ベンデドール(営業マン)」と「コンプラドール(仕入れ係り)」

 日本人的感覚でスーパーの購買係を勤めていたが巧くいかない事態に出くわした。夏が過ぎ、秋も深まるにつれてソウメンの仕入れを控え、ウドンの注文を増やした。ソウメンは夏場のものとの感覚がある。しかし気温が下がってもソウメンはかなりの勢いで売れ、在庫がどんどん減って来る。あわてて電話をすると「すいません。社長不在で二、三日後に又お電話下さい。」「又か」注文忘れをしないようメモして置く。

  又かと言ったのには訳がある。社長は無類の釣好きでこんな晴天続きの日は、じっとしていられない性格らしい。今振り返えると、なつかしく、そして悠長な時代でもあったあの頃の記憶です。

 然し、こんな伯国の特殊事情を知った後でベンデドールになったので、大いにプラスになりました。出稼ぎに行った人達が日本食の店を開けるのはチョットした流行でした。日本での生活は、商品の知識を得る面ではプラスでした。

 然しそれが、商品購入の際にはマイナスでした。少なくとも私の立場から見た時に…。売れてる商品と言って見本を見せても、それは日本では余り売れていなかったのでしょう。考え方の軸足が日本にあって買い渋ります。今買わないと次回の輸入は二、三ヵ月後でチャンスは今しかないのですが……。丁寧に断られます。

 でも平気でした。私は特別な店が数件あり、顔を出すと今月は二00で、とか五00はいいよ、と金額だけが知らされます。

 商品と数は私に一任されています。自信を持って届ける商品は間違いが少ないことを知っている人達です。五00から始め、二千を目標に力を入れた店もあり、そこまではチヨット怖ろしいよ、と一五00の枠をくれましたが、次々と湧いて来る売れ筋の商品を絞り込むのは大変で、楽しい作業でした。売る方の立場からするとベンデドールは「ソルチ(運)」を持たらす西洋の女神のようなものだと思うのです。会った時にしつかりと前髪を掴まないことには通り過ぎてからでは、後は禿げていて掴む処がありません。

 ベンデドールは売れ筋の商品五つや六つ、持っているものです。店は売る場所はあっても、商品を生産している訳ではないのです。店という空間に、より多くの商品(エサ)を並べ、魚を呼び込まないことには魚は釣れません。昨今、日本食販売の主力は中国人になり、自力でも輸入する資本は、商品を買って売ることで得たのではないかと思います。

 買う意欲は旺盛で、売れない商品まで多量に注文するので「控えた方がいい商品」と注意することも多く、仕事を辞めた今、会うと「あんたはベンデドールのくせに買わん方がいいよと反対のことを言ってたね」と言われますが、売りづらい商品を輸入するのは輸入商のミスで、それを肌で感じてもらうには、その商品を売らなければ良いという荒療法的考えからですが、彼等の成長の一翼を私も間接的に担っていたのかと思われる彼の言葉でした。

(2010年2月27日)