サンパウロからの小話07 断食と絶食(A 鎌谷)

 友人が本を貸してくれた。石原結實氏の提唱される「断食療法」興味深く読み終えて、やれそうだな、との感触を得たが、問題は何時実行するか、その決定が少々難しい。土曜日は仕事と称して街へ出かける。勿論、出かけるだけでなく、患者さんが現われれば治療をするし、同じ職場の若い人達が身体の調子が悪いと「お願い」といってやって来る。

 食事を摂らずにでかけ、空腹でマッサージができるのか。どうも見当がつかない。

 実は、永年働いた養鶏の分野では、鶏の絶食は何度か実施した経験がある。産卵している鶏たちに、人間の一存で一週間餌を絶つ。鶏は体内脂肪を燃焼さして、この難事に立ち向うが産卵は勿論停止する。

 一週間も絶食が続くと、羽毛は落ち、鶏舎の床は雪が降ったように真っ白になる。濃緑色の便、主翼羽の脱落が観察できれば一応成功と認め、給餌開始。一月後に産卵は回復する。目的は何かといえば、卵殻の薄い、大卵を産む鶏に、卵殻の厚い、中卵を産ませ、合わせて産卵率もこの荒治療で前より向上させようというもの。産卵生命は延長される。

 これを石原氏は鶏が「若返った」といわれる。見方を変えれば、そうかもしれない。鶏は経済的動物として、今絶食を実施したら儲かりそうだ、との人間の判断で断行するが、人の断食は一体何が期待できるのか。著書には数々の改善される症状が列記されている。該当する症状は私には見当たらないがマッサージ師としての職業がやってみろ、やってみろとけしかける。仕方がない。できそうな方法からやってみよう。

 朝の軽食をやめる。これが最も簡単そうだ。朝食は、脳の活動を活発にさすため、炭水化物の摂取は必要だというが、敢えて指示通り固形物は摂らず、人参三本とリンゴ一個のジュースのみにする。これで内臓は半日休まり効果が出てくるとある。

 半日断食の第一日目。口、胃の付近がチョット寂しいが我慢できる。その他の症状は全くなく、全て平常どおり。一週間後、目に見えた変化があった。マッサージ修業時代、健康な便は水面に浮くと師から聞かされていた。食事に注意し、良くかんでもひと月に時たま確認できるのみで、なかなかお眼にかかれない。それが今、現実に眼下にある。

 注意すると翌日もしかり、十日もするとそれは毎朝繰返した。腹の中では何かが変わってきた証拠とみた。少なくとも良い方に。

 それにしても、人間一食抜いたぐらいではなんともないと分かったが、今まで朝食を欠かさず摂ってきたのは何故なのかと考えさせられる。

 着伯後、最初の朝食時、パンとコーヒーがでて、ご飯は食べない、と知らされた時、どんなにガッカリしたことか。それが全く食べない今、さほどガッカリしないのはどうしてなのか。半日断食に始まり、次は一日断食、最後は七日間の断食と進むが、半日断食がひと月以上続くと、朝食を摂ろうという気になれない。人の思考とはおかしなものである。