記憶をひもといて:保存食

 ある時期になると、せっせと保存食作りに精を出していた。季節の味は、旬であるその時期のみに止め、無くなれば諦めれば良いものを、あの味をもう一度と人の食に対する欲は身勝手で未練がましいものがある。

 家庭で出来る簡単な保存食はビン詰。材料をビンに詰め、しっかりと蓋をして二?三十分間熱湯煮沸すれば大体OK。冷暗所に保存しておけば、欲しい時期にあの味が再現出来る。何時の頃からか、蓋はしっかりと締められているのに中味がいたんでいるという事態に出くわしだした。

 今日は久々にあの食材をと、期待してビン詰めの封を切るだけに、これには本当にガッカリした。何故か原因はわからない。最初はビンと蓋の洗浄、消毒が不完全故と次回は念を入れてチャンとしたが、それでもダメ。

 旧い蓋はビンとの間に僅かなスキ間が出来ているのかも知れないと蓋は新品に換え、今回は大丈夫だろうと期待と確信をもつて作業をしたが、結果は昨年の二の舞。蓋でもない。輸入品販売のベンデドールをしていたのであることに気がついた。販売する商品の一つに常温で放置出来る豆腐があった。「大豆で出来たチーズ」としてブラジル人の間ではまずまずの人気があった。日本人と違い買ってもすぐに消費しない彼等には忘れかけた頃に食べても大丈夫な日本食として、何がしか魅きつけるところがあったようだ。

 常温下で賞味期間が一年という秘密は、製造は無菌下で全て自動、密封した容器中で凝固さし、製品とするため、雑菌が混入する余地がなく、万に一つの可能性があったとしても、製造工程で混合する酵素が時間の経過と共にごく微量の酸を放出して食品のPHを少し酸性にし、雑菌の繁殖を妨げる。

 仕事柄、賞味期間を二年も過ぎたこの豆腐を試食してみたが、僅かに酸味を感じた他は、普通の豆腐であった。そうだ腐敗を防ぐようにすれば問題解決とビン詰に少量のクエン酸を添加した。テストは三点のみだったが全て成功。来年はこの方法でと蓋を、補助具を用いて開けているのに気がついた。市販のビン詰はこの器具がないことには蓋をゆるめるのは不可能に近い。握力、腕力が低下して来ている証拠だが、ヒョットして腐敗の原因は、こんなところにあったのかも知れない。しっかりと締めたつもりでも、締まっていなかったのだろう。

 さっそく応用して春先の保存食、桑の実のジャム作り、期待に反して今年は九月に温度が上らずそれが原因だったのか殆ど実がなっていない。物事は全てこんなところが本音というものらしい。

(2010年2月13日)